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お手軽投稿室〔感想〕
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ただいまと言ってドアを開けると目の前に緑の獣が立っていた。ドアノブを掴んだまま硬直する晶子に、緑の獣はくちゃりと口角をあげた。 「おおか、えりにさい」 腐りかけた水銀のような、妙な響き方のする声である。てらてら光る鱗は晶子の最も嫌う爬虫類のそれだった。一歩後ずさると、獣は慌ててかぎ爪のついた指を広げた。 「まつて、まてくだし。何にもわわりいこと。ないいんです」 必死の姿である。晶子の視線がその黒々と鋭い爪に注がれているのに気付くと、害がないことを示すようにすぐさま引っ込めた。 「わつちはただ、ただあんんたに」 獣は縋るように晶子の腕を掴んだ。小さく悲鳴が上がる。 「――晶子さんにい会いとうだけだつよ」 「どうして名前を知ってるのよ」 晶子は再び声を裏返して叫んだ。必死に腕を振り払う。「離して」 途端に、獣は小さな真ん丸の目玉を潤ませた。しばしばとまばたきして、大粒の黄色い涙が零れた。 「わつちはきらいいですか」 「嫌いよ、嫌い。潰れて死んでしまえばいいわ」 「あああ。ひどい、ひいどい。わつちを覚えては、いませんのんか」 「知らないわ、いやよ離して、腕を!」 ぱっと獣は腕を離した。よろけた晶子を悲しそうに見つめ、ため息だろうか――薄紫の細い煙をはいた。 「あいわかりんした、わかりいんした」 ゆっくりと首を振り、緑の獣は小さく体を縮めた。「わつちはあ消えまうし」 どろりと腕が溶けた。頭、背中、尾と順々に。すっかり形がなくなってしまうと、今度はフローリングに染み込んでいった。晶子がまばたきをした次の瞬間には、もうそれさえも消えていた。 腰が抜けたのか、晶子はへたりと座りこんだ。 「何、なのよ」 かすれた声がもれた。今もまだ、体が震えている。ぎゅうと自分の肩を抱きしめ晶子は夫の名を呼んだ。 「早く、帰ってきて」 ドアノブを回す音がした。晶子はぱっと顔を明るくし、振り向こうとして、気付いた。 自分の腕を覆い始めた緑の鱗に。 晶子は悲鳴を上げた。ゆっくりとドアが開く。その向こうにある影を、彼女はまだ見ていない。
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